永井潔君をはじめて識つたのは一高の学生だつた頃だ。昭和九年だつたかしら、学校の成績もよく秀才だと聞いてゐたので、美術家に転向する相談を受けたときには極力反対した。
　しかし、そんな事は無駄だつた。いつもは至つて温和な性格だが君は自分の信念を絶対に曲げない。言ひ出したら最後だ。絵かきになつてからも、君の理論や仕事は実に整然と筋が通つゐて立派だつた。私は最も有望な青年を挙げる場合には、先づ永井君に指を折る。そうして君が日本の建設的な面で大きな仕事を将来成し遂げるであろうことを疑はないものである。
　これはあとで知つたことだが、永井君のお母さんは光悦の血統を引いて居られるそうだ。やつぱり画家が彼の血の中に住んでゐたのだ。
(1957年)

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≪永井潔画集≫1995年刊より